泌尿器科 井上 省吾医師
前立腺肥大症は、多くの中高年男性に認められる病気で、尿が出にくい・近い・すっきりしない、といったさまざまなおしっこの症状を引き起こす男性特有の病気です(図1)。年齢を重ねていくにつれて誰にでも起こりうる症状と思われますが、前立腺肥大症で実際に治療を受けている方は約44万人、一方で、実際の推定患者数は約400万人で、そのうち9割が治療を受けていないのが現状です。
前立腺肥大症は、症状が無い方では経過観察や、減量・運動・飲水指導などの行動療法になることもありますが、症状が強い方は、お薬による治療からはじめます。一般的にお薬で効果がない場合や尿が出ない(尿閉)、膀胱結石などの合併症のある方など、症状が進行すると手術が必要になります。
従来の手術は、お腹を切らずに尿道からカメラを入れて、電気メスで前立腺の肥大した部分を切除する方法が一般的で、代表的な術式は、経尿道的前立腺切除術(TURP)です(図2)。この術式は、100年近く前の1932年から行われている大変に歴史の長い手術で、多くの病院で行われております。ただ、前立腺そのものを切除するので出血やそれに伴う輸血の可能性、術後も止血のために太めのおしっこの管(バルーンカテーテル)を尿道から入れるため、痛みや刺激などの合併症があります。
当院では、水蒸気を用いて前立腺肥大症を治療する経尿道的水蒸気治療(WAVE手術)を行っております(図3)。この手術は、2022年9月より本邦で行えるようになった最新の前立腺肥大症の手術です。
Rezum(レジューム)という水蒸気発生システムを使用し、前立腺に針を数か所刺して水蒸気を注入するだけの治療です(図4)。切開が不要で出血もほとんどないため、術後の痛みや刺激も最小限に抑えられ、身体への負担が非常に少ない“優しい手術”です。
WAVE手術のイメージ
実際の術式ですが、まず麻酔をかけた後に内視鏡を尿道に挿入、そこから前立腺に針を刺して103℃の水蒸気を9秒間注入します(図5)。水蒸気が広がると、前立腺の肥大組織が徐々に壊死し、体内に吸収され縮んでいきます(図6)。通常、1~3カ月かけて徐々におしっこに関わる諸症状が改善していくのが特徴です。術後は1週間、おしっこの管(バルーンカテーテル)を入れておきます(図7)。
WAVE手術は、出血がほとんどなく、手術に要する時間は5~10分程度と大変短いです。身体の負担が比較的少ないことから、合併症のリスクが高い患者さん、高齢者や認知機能障害など、術後の身体機能低下リスクが高く、従来の手術が困難な患者さんに、この手術が優先的に検討されます。また、出血が少ないため、血液をサラサラにするお薬(抗凝固薬、抗血小板剤)を中止する必要がありません。
当院では従来の前立腺切除術(TURP)に加えて、接触式前立腺レーザー蒸散術(CVP)も施行しております。こちらは、レーザーを用いて前立腺を蒸散していく手術療法で、WAVE手術と同じように血液サラサラにするお薬を継続できます(図8)。当院ではいろいろな術式が施行可能です。それぞれの術式には長所・短所があり、患者さんの病状に応じて、より適切な術式を選択しております。
おしっこの悩みは、多くの中高年男性にかかる悩みですが、前立腺肥大症は“完治”する可能性のある病態です。前立腺肥大症の治療選択肢が増えており、これまで治療できなかった方々にも手術療法を受ける機会が広がってきております。WAVE手術は、低侵襲で身体に優しい新しい治療法です。「手術が怖い」「体に負担をかけたくない」という方には、検討していただきたい治療法です。気になる方は、当院泌尿器科専門医に是非ともご相談ください。
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