小畠病院(福山市駅家町)

β遮断薬について

昨日の敵は今日の友?

〜ある心臓のお薬のお話し〜

循環器内科 小畠 廉平医師

 現在、私たちが扱う薬は約2万種類あると言われています。正しい飲み方(投与方法)を守れば効果はありますし、それによって助かる人も少なくありません。
 薬がこの世に出るまでには、長期間にわたって様々な調査や試験が繰り返されています。また、発売されたあとも薬の効果について様々な調査が行われています。その中で、「実は今まで意図していなかったこと」、「こういう病気に対して、たまたま使ってみたら意外な効果があった」ということもあり、中には医学の教科書も書き換えてしまうような事もあります。今回はそのような薬のお話をしようと思います。

 現在、心不全(心臓が体に必要な血液を送り出せなくなり弱ってしまう病気)の患者さんは増えてきています。心不全の患者さんに服用していただいている薬の一つにβ遮断薬というものがあります。この薬は当初は降圧薬(血圧を下げる薬)として発売されましたが、心臓を休ませる効果もあるため、心不全の患者さんには使ってはいけない(禁忌(きんき))薬でもありました(実際医学書にもそう書かれていました)。ところが1990年代に、アメリカで衝撃的な発表がありました。それまで禁忌と言われていたβ遮断薬をごく少量から追加投与し、少しずつ増量していくと、なんと、死亡率が劇的に改善したという内容でした。これまで心不全の患者さんに対して使ってはいけないとされた薬が、逆に多くの患者さんの命を救うかもしれないという結果に、最初はかなり疑いの目が向けられていました。しかし、他の研究機関や病院でも調査をしたところ、やはり同様の結果が得られたのです。それまでは「心不全の患者さんにβ遮断薬を出す医者は循環器医(心臓の医者)じゃない!」と言われていたのが、発表のあった十数年後には「心不全の患者さんにβ遮断薬を出さない医者は循環器医じゃない!」と評価が180度変わってしまったのです。

 21世紀を迎えて、当時医学生であった私は、卒業試験および医師国家試験の勉強をしていましたが、このときはまだ心不全の患者さんにβ遮断薬は禁忌という位置づけでした。しかしある試験対策の講義で講師の先生が「もしかすると、あなたたちが医者になったときには禁忌ではなく逆の評価になっているかもしれない」とおっしゃっていたのを覚えています。実際、医師になって循環器医としての勉強を始めたときに、その言葉は現実となっていました。その時私は医学の教科書が書き換えられるということを初めて実感しました。
 こういった事例を聞いて時々思うのは、どのようにこのような逆転の発想が出てくるのだろうか?ということです。おそらく初めて報告した医師は、薬が患者さんに及ぼす効果を注意深く見ていたのでしょう。これは非常に患者さんの事を考えている先生にしかできないことです。そういった先生方が結果として患者さんの命を救い、我々が健康でいられる方法を見いだしているのだと思います。同じ医師として非常に敬服する思いです。

 ただ注意していただきたいのは、効果も医師の指示に従った上でのことです。せっかくの薬も逆効果になってしまわないよう、服用の際は医師の指示を守っていただくようお願いいたします。

 

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*広報誌「葦」171号の記事(病気のコラム)より(pdfデータで読みたい場合はクリック)

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