小畠病院(福山市駅家町)

「物忘れ」が気になる方へ

脳神経内科 石川 賢一 医師

 加齢とともに「物忘れ」の症状が気になる方が増えてきます。「物忘れ=認知症」とイメージされる方が多いと思いますが、加齢によっても生理的な物忘れが起こりますので、必ずしも認知症というわけではありません。しかし、日本において2025年には認知症の人は730万人に増加し、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されています。このように認知症は家族や知人など、だれもが発症しうる私たちに非常に身近な疾患と言えます。
 認知症にはさまざまな種類があり、代表的な認知症として頻度の高い順に①アルツハイマー型認知症、②血管性認知症、③レビー小体型認知症、④前頭側頭型認知症があげられ、これらの疾患は4大認知症と呼ばれています。

1)アルツハイマー型認知症

 アルツハイマー型認知症は全認知症のうちの約70%を占める最も多い認知症です。アルツハイマー型認知症では脳の中でも特に記憶に関わる海馬の神経細胞が障害され、記憶力の障害を中心とした「物忘れ」症状で発症します。多くの方が思い浮かべる認知症のイメージ「物忘れ」は正にアルツハイマー型認知症の典型的症状と言えるでしょう。

2)血管性認知症

 血管性認知症は全認知症のうち約20%を占める比較的多い認知症です。血管性認知症では脳の血管の障害により脳梗塞や脳出血などの脳血管病を起こし、障害を起こした脳の部位に応じたさまざまな認知症症状を示します。認知症症状の例として、意欲の低下、言語理解の障害などがあげられます。また認知症症状以外の症状として、歩行が不安定になる方もいます。

3)レビー小体型認知症

 レビー小体型認知症は全認知症のうち約4%程度との報告があります。レビー小体型認知症では、レビー小体という構造物が脳にたまり、体をスムーズに動かせなくなる「パーキンソニズム」のほか、においを感じなくなったり、幻視(実際には存在しないものが見える症状)などが現れます。脳の萎縮は割と軽く、病初期には記憶障害が目立たないこともあります。

4)前頭側頭型認知症

 前頭側頭型認知症は4大認知症の中では少なく全認知症のうちの約2%との報告があります。発症初期の頃は記憶の障害が目立たない一方で、脳の司令塔である前頭葉の神経細胞が障害され、脳のほかの領域に対するコントロールが効かなくなり、多様な異常行動や精神的な症状が現れます。代表的な症状として、我慢ができず集中力を欠く(脱抑制)、毎日同じ行動をとる(常同行動)、すぐ怒り出す(易怒性)などがあります。

 代表的な4つの認知症を紹介いたしました。「物忘れ」症状以外にも認知症を疑う症状は多くあります。当院には認知症診療を専門とする常勤2名、非常勤1名の日本神経学会認定神経内科専門医が在籍しており、「物忘れ」やその他の症状があり、認知症を心配されている方に対して、日々診断・治療を行っています。認知症に関して気になる症状のある方はぜひ気軽にご相談ください。

認知症と神経心理検査

 認知症の診断において、問診、診察、血液検査、CT・MRIなどの画像検査に加え、神経心理検査を行うことがあります。神経心理検査とは紙や各種道具などを用いて、知能・記憶・言語などの機能障害を数値化し、定量的また客観的に評価するための検査です。当院でも認知症のスクリーニング検査として神経心理検査を行っておりますので、そのいくつかをご紹介いたします。

1)長谷川式簡易知能評価スケール (図1)

 有名な神経心理検査として長谷川和夫先生が作成した「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)があります。この検査は認知症スクリーニングテストとして多くの医療機関で使用されている最も有名な神経心理検査の1つです。テストは30点満点であり、20点以下で認知症の可能性ありと判断されることがあります。

2)立方体模写検査 (図2)

 「立方体模写検査」は提示された立方体の図を実際にペンで模写するテストです。アルツハイマー型認知症の患者さんは比較的初期から立方体の模写が困難となりますが、一方で前頭側頭型認知症の患者さんは病初期には立方体をうまく模写することができます。このように認知症検査はどのタイプの認知症なのか判別するのに役立つことがあります。

3)時計描画検査 ( 図3)

 「時計描画検査」は、指定された時刻の時計を紙にペンで書いてもらう検査です。75歳以上の高齢者ドライバーの運転免許更新時の認知機能検査にも組み込まれている検査ですので、免許をお持ちのご高齢者の中には実際に検査を行ったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。「時計描画検査」にはいくつかの方法がありますが、当院では「尾道市医師会方式時計描画検査」を用いています。

 神経心理検査の結果は認知症診断の補助、治療効果の評価などに用いることができます。一部の神経心理検査はインターネット上で閲覧することが可能ですが、スクリーニング検査の成績だけで認知症の有無が判断できるわけではありません。検査の成績は、気分・感情、意識状態の変動などによっても影響を受けることがあります。検査結果の解釈は問診、診察等を含めた専門医による総合的判断が必要となります。認知症についてご相談がある方は是非病院にお問い合わせください。

 

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*広報誌「葦」178号の記事(病気のコラム)より(pdfデータで読みたい場合はクリック)

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