小畠病院(福山市駅家町)

脂肪肝と脂肪性肝炎について

消化器内科 原 睦展医師

1 定義

脂肪肝とは肝臓、特に肝細胞に脂肪が蓄積する病態をいいます。我々日本人成人の肝臓はおよそ1~2%の脂肪が存在しています。しかし肝臓に10%以上の脂肪が蓄積すると、肝細胞内に脂肪滴が見られるようになります。

脂肪性肝炎とは、脂肪肝が影響して肝臓内に炎症細胞が浸潤し、肝細胞の変性により風船化した肝細胞あるいは凝集体(Mallory-Denk小体)を持った肝細胞、それらの肝細胞の周囲に線維化が見られる肝形態をさします。

2 原因は?

原因としては過栄養によるものが最も多く、それに伴う肥満、糖尿病あるいは過剰の飲酒が原因となる場合も多く見られます。その他、高カロリー輸液、飢餓、小腸バイパス手術、薬剤などによる報告もあります。?中でも近年増加しているのは、飲酒あるいは過栄養により発症する脂肪肝、脂肪性肝炎です。

3 患者数は?

我が国の成人の10~30%、すなわち1,200~3,600万人が非アルコール性の脂肪肝・脂肪性肝炎、そのうち1~3%、すなわち120~360万人が脂肪性肝炎に罹患しているものと思われます。?我が国ではアルコール性肝障害(ALD)の患者数は200~300万人といわれています。

また全肝硬変のうち約3割がアルコール性肝硬変です。現在、日本の国民一人あたりのアルコールの消費量が年々増加しており、今後アルコール性肝障害の患者数の増加が予想されます。

4 どうなるの?

脂肪肝や脂肪性肝炎の主たる原因として、我が国ではアルコールや過食が挙げられますが、アルコール性肝障害に関しては、アルコールの過剰摂取により、その90~100%が脂肪肝となり、その30~40%に肝線維症、10~30%に肝硬変が認められます。肝硬変から年に数%肝細胞癌が出現してきます。?非アルコール性の脂肪肝・脂肪性肝炎症例については、5~15年間で0~40%が脂肪性肝炎に、その5~20%が肝硬変を呈し、肝硬変の0~15%に肝細胞癌の発症が見られます。

このように脂肪性肝炎症例の一部に肝硬変、肝細胞癌が発症することが重要です。?脂肪肝の段階では、原因を明らかにし、それを除去することで、脂肪肝は改善します。アルコールによる脂肪肝は断酒することで、通常、2~4週間で改善する傾向にあります。

5 症状は?

ほとんど自覚症状はありません。時として肝腫大による腹部膨満感や右脇腹の叩打痛を自覚する場合があります。また、軽い倦怠感を訴えることもあります。肝硬変に進展した脂肪性肝炎では、黄疸、全身倦怠感、手のひらの紅斑が見られることがあります。

6 診断は?

血清中のトランスアミナーゼ(AST, ALT)値の軽度の増加を見ることが多く、過食や糖尿病による脂肪肝では、AST/ALT比が1.0以下で、ALT優位ですが、アルコールに起因する場合はその比が1.0以上となり、AST優位の場合が多くなります。さらに、アルコール起因の場合ではその他の原因によるものに比し、γGTP値の増加が目立ちます。ほかにはコリンエステラーゼ(ChE)や中性脂肪(TG)値の増加が一般的です。?

画像検査では超音波検査、CTなどが有用な検査です。超音波検査では、肝腫大、エコー輝度の亢進と深部エコーの減衰、肝に比し腎臓の輝度が低いため肝腎コントラストが見られること、肝内の脈管描出が不明瞭になるなどの特徴があります。?脂肪肝のコンピュータ断層撮影(computed tomography, CT)の特徴としては、肝のCT値が脾のCT値より下回り、肝・脾比が1.0以下になることが多くなります。?

以上のように画像検査で脂肪肝の診断は可能ですが、脂肪性肝炎や脂肪滴を持たない脂肪性肝炎の診断では画像による診断には限界があります。?脂肪肝と脂肪性肝炎を鑑別診断するためには、現時点では肝生検による組織診断が唯一有効です。

7 治療は?

治療の原則は原因疾患の治療となります。肥満、糖尿病に伴う脂肪肝、脂肪性肝炎では食事療法と運動療法が基本となります。肥満者は食事回数や食事摂取の仕方が不規則な傾向にあります。即ち、朝食、昼食、夕食の時間が変則的で、一度にまとめて、かつあまり咀嚼せずに摂取する習慣の方です。また、夜食や間食を食べたり、夕食の時間帯が遅く、入眠前2時間以内に高カロリーの食事をとる傾向にあります。

以上のような食習慣は改善する必要があります。摂取する3大栄養素の比率を、糖質:蛋白質:脂質=5:3:2とし、1日の摂取カロリーを、標準体重×25~35kcal(家事・軽労働25kcal、肉体労働30kcal、重労働35kcal)で高蛋白低脂肪食が推奨されています。?

運動療法は、日常的に運動されていない人、あるいは肥満や呼吸器・循環器系疾患の合併を配慮して歩行から開始して、徐々に運動量を上げていく方法を良いでしょう。?たとえば万歩計をつけ、3日間の平均歩数を計算し、3~4日に500歩ずつ負荷していき、10,000歩の段階で、可能であれば1日20分ほどのジョギングを行います。

アルコール性肝障害の治療の原則は断酒と、栄養バランスのとれた食事を摂取することが大切です。以上の食事・運動療法で効果が乏しい時には、補助的に薬物療法を行います。薬物療法もあくまでも補助的であり、病態に準じた選択を行います。

8 最後に

これまで述べてまいりましたが、脂肪肝・脂肪性肝炎の多くが過栄養や過剰飲酒と運動不足による生活習慣病を背景として発症してきます。つまり、日常生活において、生活習慣に配慮することで、これらの病気を予防することも可能であるともいえるわけです。毎日の生活リズムにおいて、自分にあった適正な睡眠時間をとり、バランスの良い食事、適度な運動をとり、適正な体重を維持する事が大切です。また、間食、過度の飲酒、喫煙を控えることも重要です。

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