小畠病院(福山市駅家町)

パーキンソン病について

脳神経内科 小畠 敬太郎医師

 私は福山府中の地で初の脳神経内科医として、40年間多くの神経内科疾患の患者さんを診てきました。神経難病に指定されているパーキンソン病は、現在では難病のなかでも適切な治療によりうまくコントロールすることのできる病気の一つです。
 パーキンソン病に限らず、神経内科疾患の診療にあたっては、詳細な病歴の聴取と、丁寧な身体所見の診察に加え、注意深い神経学的所見を記録することが基本です。そのうえに必要な検査を行い正しい診断をつけ、その人にとって最もふさわしい治療法を選んで差し上げることが我々の務めです。
 有病率は約1000人に一人、70歳以上では100人に一人とされています。直接死因として最も多いものは誤嚥性肺炎です。本症は発症から20年以上にわたる闘病生活となることもあります。治療法の選択肢も広がり、日常生活におけるリハビリや各種の在宅医療・介護サービスの選択肢も広がっています。そのためには我々はできるだけ療養中の患者さんやご家族の肉体的・時間的・経済的な負担を減らし、QOL(Quality of life:生活の質)を下げないように協力して差し上げることです。

パーキンソン病とは

 パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質であるドパミンの量が減ることで発症します。ドパミンは脳内の黒質で作られますが、パーキンソン病では脳の神経細胞が減少し、ドパミンの量が減るため、神経伝達に障害が生じ、手足が動きにくくなったり、ふるえたりする症状があらわれます。

⒈ パーキンソン病の症状について

 パーキンソン病の多くは40歳以降に発症しますが、その症状は基本的には『運動症状』と『非運動症状』とに大別されます。
 A)運動症状
 1)一般によく知られているのは、じっとしている時(安静時)の手や足のふるえ「振戦」で、パーキンソン病の初期症状として最も多いものです。最初は左右どちらか一方から始まります。
 2)筋肉が硬くなり「筋固縮・強剛」、本人には分からなくても診察する時に、手首や肘の関節を他動的に屈伸させるとカクカクと歯車を回した時のような歯車様筋強剛(と表現)、あるいは鉛管を曲げ伸ばしした時のような鉛管様筋強剛があります。この所見にも左右差が見られます。
 3)日常のさまざまな動作が鈍くなる「寡動・無動」。まばたきが少なくなり表情が乏しい仮面様顔貌、言葉は小さくて早口になり、書いた文字が段々小さくなる、歩くとき腕の振りが消えて歩幅も小さくなります。

 4)「姿勢反射障害」のため転びやすく、歩くときは前屈みで小刻みな歩きで足が床に張り付いたようで足が前に出難くなったり(すくみ足)、だんだん小走りになって止まれなくなること(突進歩行)もあります。これらの症状は発症後しばらくして現れます。

引用:ウィリアム・リチャード・ガワーズ「神経系疾患マニュアル」(1886年)に記載されたパーキンソン病のイラスト

 これらの症状が出現すると患者さんは身体の動きの変調に気が付かれます。そこで患者さんはクリニックや病院を受診されることになります。
一方我々のところを受診された時に病歴をお尋ねすると、そこではじめて「そういえば・・・と気が付かれるような些細な体の不調や生活上のトラブルをお話になります。それらの多くは次の『非運動症状』と呼ばれるもので、患者さんにとって意外と深刻な問題になっています。

 B)非運動症状
 上記の運動症状に比べ、非運動症状はご本人には病気の症状としては気づかれにくいものです。 
 便秘、胃のもたれなどの消化器症状、夜間頻尿、性機能障害、立ち眩み(起立性低血圧)、よだれが良く出る(流涎)など「自律神経障害」としてのさまざまな症状を認めます。当院へ来院される数年以上前から早朝覚醒前に変な夢や怖い夢を見て大声をあげたり寝言を言ったりすることがあります(RBD;レム睡眠期行動障害)。また夜間の不眠や日中の過眠(眠くなる)などの「睡眠・覚醒障害」嗅覚や味覚の低下や、不安や抑うつ的になる人が多いことが知られています。また幻覚や軽度の認知機能障害が見られることもあります。
 これらの非運動症状は、パーキンソン病では運動症状に気が付く10年も前から認められることが知られています。そのため患者さんは長年かかりつけの内科(消化器内科や循環器内科)、泌尿器科、精神科などの先生にかかっておられることが少なくないと思います。またこのような症状の続く方はパーキンソン病の可能性もあり、一度脳神経内科医を受診されることをお勧めします。
 さらに進めば、パーキンソン病の治療中に「行動異常」として病的賭博、性的関心の亢進、買いあさり、同じ動作の反復などが見られることがあります。これらはパーキンソン病の治療薬を見直すことで治まることがあります。

 

 こちらの図はパーキンソン病の経過と臨床症状を示しております。便秘やRBDといった前駆症状が先行することが知られておりますが、無動や振戦といった運動症状が出現することでPDと診断され、治療が開始されます。その後進行に伴い運動合併症や精神症状が合併することが知られています。

2.パーキンソン病の診断について

 詳しい病歴を聴きとり、丁寧な一般身体的診察と神経学的診察と日常の検査により、診断は必ずしも困難ではありません。ただ臨床的にパーキンソン病によく似た症状や身体所見を呈するもの(これらをパーキンソン症候群といいます)を除外必要があります。たとえば多系統萎縮症、進行性核上性麻痺などの神経変性疾患などです。また薬剤性のもの(他の病気の治療に使用されているお薬でおきるもの)もあり、これは日常ときどき遭遇しますが原因となるお薬を止めればよくなります。
 なお特発性正常圧水頭症や多発脳血管障害では、臨床的にはいずれもlower parkinsonismを呈することが知られています。すなわち下半身の動きが悪く、つま先を開いて開脚し、すり足で小刻み歩行を呈しています。この歩き方はパーキンソン病の人の歩き方とは明らかに異なり、慣れると比較的容易に区別できると思います。正常圧水頭症は診断がつけは脳外科的に根治することが出来るものです。

 初診時に病歴、身体所見、神経学的診察により確実な、あるいはほぼ確実なパーキンソン病と診断したら、パーキンソン病診療ガイドラインに沿って薬物療法を開始することになります。勿論パーキンソン病以外のパーキンソン症候群や他の病気を除外するために、血液検査やCTなどの画像検査を行います。更にMIBGシンチグラムやDATスキャン検査などの鑑別に必要な特別な検査は連携している高次医療機関に依頼して行っています。
 診断までの流れを以下のようにフローチャート図にしてみました。

*参考 パーキンソン症候群を呈しパーキンソン病(PD)とまぎらわしいもの*
(A) 多系統萎縮症(MSA):PD同様に動作緩慢、筋強剛がみられますが、振戦は少なく、症状の左右差も明らかでなく、レボドパの効果も乏しいのがPDと異なるところです。また進行が早いのも異なるところです。MSAのうち、早くから小脳症状がみられる型(MSA-C)は、PDとの鑑別はあまり難しくありません。MSA-Pは上記に加え、MIBG心筋シンチグラフィの取り込み低下がみられないのがPDとの鑑別になります。
(B) 進行性核上性麻痺(PSP):PD同様に動作緩慢、筋強剛、眼球の垂直方向への動きが悪く、やや高齢発症のことが多い。進行すると頚部が後屈し、転びやすくなります。症状の左右差は乏しい。
(C) 大脳皮質基底核変性症(CBD):左右差の強い筋強剛、動作緩慢と手指でキツネやハトの真似ができない(構成失行)がみられます。

3.パーキンソン病の治療について

A)薬物療法      
1) 脳内に減少しているドパミンを増やす目的で、その前駆物質であるレボドパを使用します。 しかしレボドパ単剤では大量に服用しなければならないので、現在ではレボドパとレボドパの分解酵素阻害剤とを配合した製剤が使用されています。レボドパはパーキンソン病のほとんどの症状に対して極めて有効で、多くの患者さんが普通に日常生活を送ることができるようになりました。現在ではパーキンソン病治療にはなくてはならない薬剤です。しかし服用後の効果の持続時間が短いこと、長期間服用しているうちに効果持続時間の変動や、幻覚が現れたり身体の一部に不随意運動(ジスキネジア)が現れたりする、など副作用や問題点が現れてきたため、様々な工夫がなされています。

2) 脳内のドパミン受容体を刺激してドパミンと同じ働きをする薬(ドパミン作動薬)。すなわちレボドパを服用したのと同様の効果があり、持続時間も長く、近年何種類かのドパミン作動薬が使用できるようになりました。レボドパの副作用など様々な理由でその増量が出来ない方や嚥下障害がある人にとって、本剤は内服剤だけでなく貼付剤も工夫されており、嚥下障害のある人にとっては有用な薬剤です。

3) 脳内ドパミンを減らさないようにする薬; ドパミンの代謝酵素(MAO‐B)阻害薬や血中レボドパL-ドーパの代謝酵素(COMT)阻害薬があります。
4) その他
➀アセチルコリンの作用を抑える抗コリン剤、
②ドパミンの放出を促す薬剤アマンタジン
③ノルアドレナリン前駆物質のドロキシドパ、などがあります。

<薬物治療中にみられる副作用などの問題点など>
➀レボドパはパーキンソン病治療の基本となる薬剤ですが、長期使用に伴い様々の問題が出てきます。その薬効時間の短縮のため症状の日内変動が現れ、その効果が出ている時(オン時)に不随意運動(ジスキネジア)が見られたり、効果が切れている時は動けなくなります。
*wearing-off 現象は薬剤の血中濃度の変動ともに運動症状が改善・増悪する現象です。
*一方on-off 現象は、スイッチを入れたり切ったりしたときのように、急に動けるようになったり動けなくなる現象のことです。服薬のタイミングと関連がなく突然生じる症状の変化で、その予測が出来ないのが特徴です。

②衝動制御障害、ドパミン調節障害(要再考)
パーキンソン病患者では、長い間レボドパやドパミンアゴニストを使用していると、病的賭博、性欲亢進、爆買い、無茶食い、パンディングという常動的な反復運動などの衝動制御障害きたすことがあります。これらの症状に対しては、ドパミンアゴニストの減量を行います。

B)各種デバイス療法
当初薬物療法によく反応していても、経過とともに症状の日内変動が大きくなったり、ジスキネジアなど薬剤による副作用のため経口的な薬剤の増量や、薬剤の組み合わせの変更がこれ以上は困難となることがあります。このような場合近年機械を用いた『デバイス療法』が行われるようになりました。
1) ひとつは脳深部刺激療法「DBS」: 脳の特定の部位に細い電極を挿入し、そこに弱い電気信号を送って脳を刺激して症状の改善を図るものです。
2) もう一つは、レボドパ‐カルビドパ経腸療法「LCIG」 (levodopa-carbidopa intestinal gel):小腸内に専用チューブを留置し、専用ポンプを用いてカセットに入れた薬剤を持続的に小腸内に投与します。こうすることで血中の薬剤濃度の変動を少なくし、症状の改善とQOLの向上を図ります。

4.パーキンソン病の経過と予後について(重症度)

 パーキンソン病は基本的に進行性の病気ですが、人によって進行のスピードは様々です。ふつう3~5年で動けなくなるようなことはありません。経験的にもふるえ(振戦)が主症状だと進行は遅く、動作緩慢が強い人は進行が速い印象です。適切な治療が行われれば、発症後10年以上は普通の生活が可能です。それ以後は個人差があり介助が必要になることもあります。なお非運動症状の強い人のほうが予後はよくない印象があります。末期には嚥下障害も出現し誤嚥性肺炎などを繰り返し、寝たきりになってしまうこともあります。パーキンソン病では全経過25年以上という方も少なくありません。勿論生命予後を決めるものは、併発したがんや心・脳血管系の病気、呼吸器系の病気などの有無にもより、それは一般の人と同様です。
 なお、医療費(医療保険)や介護費用(介護保険)支援のため、以下のような病気の重症度分類や、生活機能障害度の判定が求められています。

5.パーキンソン病のケアやリハビリテーションについて
  (在宅では通院リハビリ、訪問看護・リハビリの利用)

 パーキンソン病でリハビリテーションを行う目的は、「症状を軽くさせること」と「症状の進行を遅らせること」です。
 症状を軽減させるためには様々な運動があります。固くなった筋肉や関節を軟らかくするストレッチでは背筋を伸ばす運動や胸を拡げる運動、ふくらはぎや太ももの裏を伸ばす運動など、背中側をしっかり伸ばすことを意識します。

 身体が傾くことで取りにくくなるバランス障害に対しては、四つばいで片手、片足を交互に挙げる運動を行い、体幹を鍛え転倒しにくい体づくりを目指します。

 歩行では歩幅がだんだん小さくなり、次いで早足となる「突進歩行」や「すくみ足」などに有効な練習があります。
 一定間隔の目印をまたいで歩いたり、「1.2.1.2」といった号令に合わせて歩いたりすると足が出やすくなることは代表的な対処法です。階段の昇り降りやジグザグ歩行なども有効ですがいずれも転倒の危険性があります。リハビリに携わる理学療法士や作業療法士にアドバイスを受け、自分にあった適切な運動を行うことが肝心です。

 当院のリハビリでは入院の患者さんにはもちろん、外来でもリハビリを行います。要介護認定を受けられている方では利用時間やサービス内容に応じてデイケアやデイサービスで理学療法士が個々に応じたリハビリを提供します。(詳細はご自身のケアマネジャーや、病院の担当者にお尋ねください)当院のリハビリでは入院の患者さんにはもちろん、外来でもリハビリを行います。要介護認定を受けられている方では利用時間やサービス内容に応じてデイケアやデイサービスで理学療法士が個々に応じたリハビリを提供します。(詳細はご自身のケアマネジャーや、病院の担当者にお尋ねください)
 通院がむずかしい、あるいは家の中での動きに特に困っているといった方には訪問看護ステーションから赴く訪問リハビリという手段もあります。主治医もしくは当院リハビリテーション科へご相談ください。

6.レスパイト入院について

 パーキンソン病をはじめとする神経難病の方が自宅で過ごすためには、介護負担も多くご家族の休息も必要です。これを「レスパイト」と言います。当院は難病協力病院として難病の方が自宅で過ごせるように「レスパイト入院」をお受けしております。また患者さん自身も入院中に規則正しい生活リズムで薬剤調整を行い、毎日リハビリを行うことで動きの改善や維持につなげ、本人の運動意欲の向上を目指しています。
 また、他の医療機関に通院されている難病の患者さんのレスパイト入院もお受けしています。診療所の先生や地域のケアマネジャーさんからの相談もいつでも当院の地域連携室までご相談ください

7.介護保険や指定難病など制度について

 パーキンソン病が進行し介護が必要な状況になると介護が必要になってきます。介護保険で介護サービスを利用し住宅環境を整えたり、ご家族の介護負担の軽減を図ることができます。
 また医療費についても重症度に応じて難病医療費助成の申請が可能です。外来・入院・在宅(訪問診療や訪問看護など)を利用する際に医療費控除を受けることができます。詳しくは地域連携室のページをご覧ください。

 

以下の資料を参考にしています。
Ⅰ.「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」 
  監修・日本神経学会 
  編集 「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会
Ⅱ.難病情報センター 「病気の解説パーキンソン病」 (指定難病6)

 

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