小畠病院(福山市駅家町)

心不全について

循環器内科 小畠 廉平医師

①心不全とは何か?

心不全とは、心臓から体に十分な血液と酸素を供給できなくなることによっておこる病気です。様々な原因で心臓の働きが悪くなると、全身の細胞や組織が効率的に動作できなくなります。重症になると、日常生活が困難になるばかりでなく命に関わることがあります。日本では約100万人以上が心不全であると推定されています。
ここ最近の状況を見ると、心疾患(心臓の病気)による死亡数は第2位と多くの方が心疾患で亡くなっていることがわかっています。また心疾患で亡くなった方の中で、心不全で亡くなった方が最も多いことがわかっています。

主な死亡別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移

厚生労働省 令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況より抜粋

死因分類別の死亡数・死亡率(人口10万対)

厚生労働省 令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況より抜粋

②心不全の原因は?

心不全の原因は多岐にわたりますが、主なものとして以下のようなものがあります

  • 高血圧
    長期間の高血圧が心臓に負荷をかけた結果、心臓が弱ってしまうことによって心不全が起こります。
  • 冠動脈疾患
    心臓の血管が狭まる、あるいは詰まることで、狭心症や心筋梗塞が起こります。その結果、心臓の筋肉が酸素不足に陥ったり、心臓の一部の筋肉が死んでその部分が動かなくなったりすることによって、心臓全体の収縮力に影響が出てしまい、心不全が起こります。
  • 不整脈
    普通の脈とは違う不整脈が発生することによって、心臓の収縮が邪魔されてしまった結果、心不全が起こります。
  • 弁膜症
    心臓の弁に問題が生じることによって、心臓そのものに負担がかかった結果、心不全が起こります。
  • アルコールや薬物の摂取
    過度な摂取によって心臓の筋肉にダメージを与えた結果、心筋の収縮力が落ちてしまい、心不全が起こります。
  • 先天性心疾患
    生まれつき心臓の構造や心臓の筋肉に問題がある場合にも心不全が起こります。

③心不全の症状は?

心不全の症状には、以下のようなものがあります。

  • 呼吸が苦しい、疲れやすい
    「階段や坂道の上り下りや重いものを持って運んだときに息が上がって途中で休まないといけない」、「疲れやすい」、「横になると息がしにくくて座らないとうまく息ができない」といった症状が出ます。
  • 体がむくむ
    体に余計な水分がたまって足がだんだんむくんできます。体全体がむくむこともあります。
  • トイレに行くことが増える
    詳しい原因はわかっていませんが、夜寝ているときにおしっこがよく出るようになることがあります。
  • 食欲が落ちる、体重が増える
    心不全によって、体に必要な血液が送り出せなくなった結果、内臓が酸素不足となり動きが鈍くなることによって機能が低下し、食欲が落ちます。また体内に余分な水分がたまることからむくみとともに体重も増加していきます。

④心不全の検査は?

上記の症状から心不全が疑われる場合、以下の検査を行います。

  • 胸部レントゲン検査
    心不全を起こすと、心臓が大きくなったり、肺に水がしみ出してきます。胸部レントゲンではそういった事がないかを見ることができます。
正常な方の胸部レントゲン写真 心不全を起こされた方の胸部レントゲン写真
心臓(赤い矢印)が正常と比べて拡大しており、右の肺にうっ血(青い楕円:肺に水がしみ出したため白っぽく映る)と胸水(赤い楕円)が出現しています。

 

  • 心電図
    胸部レントゲンと同様簡便な検査です。不整脈や心筋梗塞といった心不全の原因となるような異常がないかを大まかに探ることができます。

以前心筋梗塞を起こされた方の心電図の例。赤丸の変化が心筋梗塞を以前起こした時に出現する心電図変化です。もし心不全を起こされた方に心電図検査をしてこのような心電図波形の変化をみたら、原因のひとつとして心筋梗塞の影響を考えることができます。

  • 心臓超音波検査(心エコー)
    超音波で心臓全体の動き、心臓の中の弁の動きや肺に水がしみ出していないかを見ることができます。

⑤心不全の治療法は?

心不全の治療法は多岐にわたりますが、一般的に行われている治療としては以下のものがあります。

  • 薬物療法
    急性期においては利尿剤の投与(肺や体にたまった余計な水分をおしっこにして出す薬)を中心に治療を行います。また呼吸がしんどい場合は酸素投与を行います。心不全の初期治療で落ち着いてきたらレニン・アンジオテンシン系阻害薬(アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、ネプリライシン阻害薬)、アルドステロン受容体拮抗薬、β遮断薬、SGLTⅡ阻害薬を中心とした薬剤を服用していきます。上記4種類が現在心不全に対するその後の経過を改善する薬剤として広く使われており、その他心臓の状態に応じて他の薬剤も追加していきます。
  • 非薬物治療
    薬物治療でも症状が強い場合やかなり重症な場合は人工呼吸(非侵襲的陽圧呼吸(NPPV)、気管挿管)や大動脈バルーンパンピング(IABP)、持続透析(CHDF)などを行うこともあります。
  • 生活習慣の改善
    心不全を発症される方の多くは高血圧や糖尿病といった生活習慣とも密接に関連する病気を持っていることが多く、それらの病気に対する治療の一環という意味も込めて、食事の見直しや運動することをおすすめしています。食事については塩分の制限(塩分が多いと体の中に余計な水分もためやすくなるため)が中心となり、運動については1日20-30分の散歩をおすすめしています。
  • 手術などの高度医療
    心臓の弁に原因がある場合は、弁に対する手術が必要となることがあります。また重症の心不全の患者さんには両心室ペーシング(心臓の収縮を手助けするために電気刺激を加える装置)や植え込み型除細動器(命に関わるような不整脈を電気ショックで止める装置)を手術で植え込むことがあります。その他補助人工心臓や心臓移植といった高度医療を行うことがあります。

⑥心不全を予防するには?

心不全は発症する前のステージA・Bと発症後のステージC・Dに大きく分かれます。心不全発症を予防するにはステージAの段階でそこから先に進行しないようにする必要があります。そのために以下の点に注意すると良いと言われています。

  • 高血圧、糖尿病、高脂血症の管理
    まずは心不全につながるような疾患にならないようにすること、また元々お持ちの方は悪化しないようにしていくことが重要です。
  • 適度な運動と健康的な食事
    適度な運動は運動の持久力を上げるだけでなく、心臓の機能に対しても良い効果があると言われています。1日30-60分の運動をおすすめしています(朝と夕に分けて行うのも可)。また食事については塩分を減らしたり、適切なカロリーを毎日とることをおすすめしています。当院では心不全の患者さんを対象に管理栄養士から「どういうものを食べたらいいか」、「どういうことに気をつけたらいいか」という話(栄養指導)を聞いて頂くことをおすすめしています。
  • タバコを控える
    タバコは万病の元です。多くの病気の元にもなりますし、もちろん心臓や血管にも悪影響を及ぼします。タバコを吸われている方には禁煙をおすすめしています。

心不全患者さんの数はこれから増えていくと言われており、無治療だとがん以上にその後の経過が悪くなる疾患ですが、心不全発症後も内服治療を続けることや生活習慣を見直すこと、すなわち適度な運動や食事(食べ過ぎないこと、塩分の取り過ぎに注意すること)で、生活の質は大いに向上します。また、生活習慣病(高血圧や糖尿病)といった心不全のきっかけとなるリスクも減らすことができます。生活習慣病をお持ちの方で、心臓のことが気になるようでしたら、一度当院の循環器内科外来にお越し下さい。

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