脳神経内科 小畠 敬太郎医師
頭痛雑感その1 子供の片頭痛
私の外来は扱う病気の性格上、中高年の患者さんが大多数を占めています。ところが夕方の外来に9~12歳の小学生が混じることがあります。小学生の子供達が来ると診察室がにぎやかになり心も和みます。
ここで小学生の患者さんを積極的に診るようになるきっかけとなったMさん(23歳・女性)の病歴(前半部分)をご紹介します。
***小学校6年生頃から時々頭痛があり。その都度痛み止めを服用していた。月経中は特にひどかった。中学生になり、視野の右半分がぼやけてきて10数分して拍動性の頭痛が出現するようになった。嘔気・嘔吐もあった。そんな時は音や臭いが嫌で、布団をかぶってじっとしていた。中学2年生の頃より週3~4日頭痛があり、アスピリン服用して喘息を起こしたこともあった。また夜更かしをすることが多くなり、朝寝過ごして学校を休んだり、朝食をとらずに登校して頭痛がおき、早退するような事を繰り返していた。高校生になり、頭痛の回数が多くなり学校を休みがちになってきた***
この子は病歴を聞いただけで診断がつけられるように、典型的な前兆を伴う片頭痛です。しかし小学校以来、親からも担任の先生からもこの子はよくズル休みをする子だと思われていたのです。本人は周りがわかってくれないと反発し、問題児と思われる不幸な事態になったのです。このように朝登校前に頭が痛いとか言ってぐずぐずしている子は、片頭痛ではないかと疑ってきちんと専門医を受診すべきだったのです。
私は小学校の学校医として感じるところがありました。毎年これに似た状況の若い患者さんに時々出会うようになりました。
子供の片頭痛の特徴は、いきなり頭痛が始まり、比較的短い時間で治まる。さらに腹痛や嘔吐がひどいというような特徴があります。片頭痛を持つお母さんに聞いてみると、このような症状を訴える子供さんが少なくありません。
このようにして頭痛を訴える子どもを丁寧に診療してあげることが彼らの将来を大きく左右すると言っても過言ではありません。
頭痛雑感その2 薬物使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)
引き続き、Mさん(23歳女性)の病歴(後半)をご紹介します。彼女は前半の病歴から小学校6年生頃からの片頭痛と考えられます。
***200X年(高校2年生)ごろから夜更かしが多くなり(2~3時AM)、ほとんど毎日頭痛があり、痛みも強くなった。その頃から市販薬をほぼ毎日使用するようになっていた。家族や学校の指導にもかかわらず不規則な生活を続け、高校中退となった。補習校を経て200X+3年4月大学へ入学した。
大学入学後も生活態度は改まらず、毎日頭痛があり市販の鎮痛剤を連用していた。アルバイト先もしばしば体調不良を理由に休んでいた。200X+6年、学業のストレス、夜更かしなどから頭痛が毎日おきるようになった。ひどいときは嘔気・嘔吐で動けなくなり、さまざまな市販鎮痛薬も効果なく、食欲もなく明かりを消して音のない部屋でじっとしているしかない状態となり、同年3月当科初診。母親・父親とも頭痛もちである***
この時点で彼女は初めて「片頭痛」が基となった「薬物使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」と診断されました。全経過は10年の片頭痛で、5年以上の「薬物使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」に悩まされていたわけです。片頭痛予防薬を処方し、直ちにいかなる鎮痛剤も止めるように指示しました。
その後3~4日間は死ぬほど痛かったそうです。その後5日くらいから頭痛は殆ど感じなくなり、1週間から10日くらいしたら痛みは全く感じなくなり、本人は先が見えてきたと明るく話すようになりました。その後時々もともとの片頭痛発作を起こしてもトリプタン製剤の適切な使用により、日常生活や学業には支障をきたすようなことはなくなりました。その後彼女は無事大学を卒業して国家試験も合格し、今では元気よく医療現場で働いています。
小・中学生の頃に彼女の頭痛の訴えにもっと耳を傾け、その後の病態に早く気付くことができれば、彼女の人生はもっと違ったものになったかもしれません。このように「たかが頭痛」であっても適切な医療を受けることが大切であると教えられた患者さんでした。