脳神経内科 北村 樹里医師
今回のテーマはボツリヌス療法で、ボツリヌス菌が
作り出すボツリヌス毒素を用いた治療です。
「毒素」というと何やら恐ろしい感じもしますが、菌が産生するタンパク質で、有害な濃度より薄めて安全に使用します。また、ボツリヌス菌を投与するわけではありませんので、感染する危険もありません。
ボツリヌス毒素は運動神経からのアセチルコリンの放出を阻害し、神経から筋肉への伝達を遮断します(図1)。その結果、筋肉の収縮を抑え、筋肉が動かないようにします。その特性を活かして顔面けいれん、眼瞼けいれん、痙縮(けいしゅく:手足がつっぱる状態)など(図2)、筋肉の異常な収縮により起こる疾患に対して使用されます。いずれも意図せず筋肉が勝手に動く病気です。その勝手に動いている筋肉に直接ボツリヌス毒素を注射し、筋肉の収縮を抑え、症状を改善させます。
投与してから効果が現れるまで数日から2週間程度かかります。効果も永続するわけではなく、3~4ヶ月で消失します。そのため、多くの患者さんが3~4ヶ月ごとに投与を繰り返しています。
図でも示したように痙縮は脳卒中などの後遺症として起こる症状です。ボツリヌス療法は、脳卒中治療ガイドライン2021でも推奨度Aとエビデンスの高い治療です。ボツリヌス療法は麻痺を改善させる治療ではなく、あくまで手足のつっぱりをとる治療です。つっぱりが取れたところでしっかりとリハビリテーションを行い、痙縮改善の維持や筋力増強を図ります。つまり痙縮の場合はリハビリがセットになります。また、ボツリヌス毒素を注射した直後からリハビリを行うことでさらに効果的になると言われています。脳卒中を発症してからなるべく早い段階でボツリヌス療法を導入することが望ましいですが、発症してから数年経過していても効果的な場合もあります。拘縮(関節が固まってしまうこと)が強くなると改善は難しいですが、良くなる事があるため治療を一考する余地があります。
まぶたが閉じにくい、顔がピクピクする、脳卒中後に手足がつっぱって困るなどご自身に当てはまる症状があれば、一度病院にご相談ください。