よく便秘や下痢になる。もしかしたら・・「過敏性腸症候群」かもしれません。
消化器内科 原 睦展医師
はじめに
仕事が手に付かない、食事もおいしくない、 など日常生活に大きな支障をきたす「便秘・下痢」。ひどい場合は潰瘍やがんなどの可能性があるため、病院では内視鏡検査で大腸や小腸の状態を確認するわけですが、何の異常も見つからないケースが増えてきています。このように具体的原因がわからない腹痛や便通異常を「過敏性腸症候群」と呼んでいます。
「過敏性腸症候群」とは
過敏性腸症候群は、内視鏡検査などで大腸や小腸に潰瘍やがんなどが認められないのに、腹痛や便秘・下痢などの便通異常が長期間つづく症状のことをいいます。頭痛やめまいなどの消化管系以外の症状が伴うこともあります。 便秘や下痢を訴える方の10~15%の方がこの過敏性腸症候群だといわれており、腸関連の病気としてはよくある病気といっていいでしょう。しかし、患者さんの中には便意がいつ起こるかわからないから、電車に乗るときは急行ではなく各駅停車にしか乗れないとか、つねにこの症状のことが気になって仕事も手に付かないし、食事もおいしく食べられないといった強い不安感を持っている方も多く、日常生活に深刻な影響を与えています。
「過敏性腸症候群」の原因
過敏性腸症候群の原因は、現在のところ明確になっていませんが、精神的ストレスや、過労などの身体的ストレスが主な原因といわれており、脳の緊張状態が腸のさまざまな機能に影響を与え、腹痛や便通異常を中心としたおなかの症状を起こしているのではないか、と考えられています。
■消化管運動機能の異常
大腸の食物をこねて混ぜ合わせるための運動(分節運動)が異常に高まったり、小腸の運動機能に異常が起こったり、といった症状が多く見られます。これらは主にストレスなどによって起こるため、睡眠中などリラックスしているときには症状が現れないという傾向があります。
■消化管の知覚過敏
何らかの原因(ストレス等)で消化管の感覚が敏感になってしまい、少しの刺激によって消化管の運動が起こることで症状が現れます。
「過敏性腸症候群」の症状
病院にかかる6ヵ月以上前から、くりかえし腹痛やおなかの不快感などの症状があり、最近の3ヵ月では月に3日以上の割合で、以下のうち2つ以上の症状が当てはまる場合に、過敏性腸症候群と診断されます。
(1)排便によって軽快する
(2)排便回数の変化で始まる
(3)便性状(便の形や硬さ)の変化で始まる
また、その症状は大まかに以下の4つに分類されます。
●便秘型:腹部の痛みやおなかの張り (腹部膨満感)をともなう便秘症状
●下痢型:腹痛をともなう下痢症状
●混合型:便秘と下痢をあわせもつ症状
●分類不能型:頭痛やめまいなど、消化器系以外の症状
「過敏性腸症候群」の検査
過敏性腸胃腸症の検査は、腸の粘膜に潰瘍などがないことを確認するための検査になります。症状にあわせて以下の中から選ばれます。
●腹部X線検査
●内視鏡検査
●超音波検査
●血液生化学検査
● 便潜血検査
「過敏性腸症候群」の治療
過敏性腸症候群の治療は、主に薬物療法などの内科的治療と、食生活を含むライフスタイルの改善の両面から行ないます。
■薬物療法
主に病院で処方する、以下のくすりで治療を行ないます。
- 消化管運動機能改善薬:低下したり、過剰になりすぎたりしている腸の運動機能を正常な状態に近づける作用を持ったくすりです。
- 鎮痙薬:腹痛を和らげる働きを持ったくすりです。比較的速やかに作用し、我慢できないおなかの痛みを抑えます。
- 乳酸菌製剤:腸の健康に有益な「ビフィズス菌」を主成分としたくすりで、腸内の細菌分布の異常を抑え、下痢の症状を抑える働きがあります。
- 下剤: 腸内で硬くなった便に、水分を与えてやわらかくしたり、大腸の粘膜に刺激を与えたりして便を排出させるくすりです。
- 繊維製剤:食物繊維で、便の水分バランスをコントロールするくすりです。便秘と下痢の両方の症状を和らげます。
- 抗不安薬:軽い不安や緊張など、ストレスに有効なくすりです。
■ 食生活の改善
食生活にも気をつけながら、治療を行ないます。
●刺激物を避ける
●規則正しい食生活を心がける
●よく噛み、ゆっくり食べ、また食べ過ぎない
●消化にいいものを選んで食べる
このほか、睡眠を十分にとり、ストレスをためないようにするなど、日常生活の改善も必要です。