消化器内科 原 睦展医師
便秘とは
便秘はよくある病気です。便秘の捉え方は人さまざまで、毎日出ないと気の済まない人もいれば、2、3日は出なくても平気な人もいます。
便秘とは、2017年に日本消化器病学会の関連研究会である「慢性便秘の診断・治療研究会」が出版した『慢性便秘症診療ガイドライン』によれば、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」としています。つまり、便秘は疾患名でも症状名でもなく、状態名であると規定しているのです。その状態とは、「排便回数や排便量が少ないために糞便が大腸内に滞った状態」、あるいは「直腸内にある糞便を快適に排出できない状態」です。すなわち、自分の排便に満足していない状態が便秘です。
今回のガイドラインでは、まず、便秘の原因として、「器質性」と「機能性」に分類されました。「器質性」は「狭窄性」と「非狭窄性」に分けられます。そして、「非狭窄性」と「機能性」は、それぞれ「排便回数減少型」と「排便困難型」に分けられるという構造です。この「排便回数減少」と「排便困難」というのが、「症状」になります。「排便回数減少」のめやすは「週3回未満の排便」、「排便困難」とは「直腸内の糞便の排出が十分でなく残便感がある」状態です。さらに、「病態」として、「大腸通過正常型」「大腸通過遅延型」「便排出障害」に分けられます。「大腸通過正常型」は、排便回数や排便量が少なく、主な原因は食物繊維摂取不足です。そのため、適正に食物繊維をとること(目標は1日に18~20g)で改善することが多く、生活指導が重要になります。「大腸通過遅延型」「便排出障害」では、食物繊維の摂取量を増やしても改善しないことが多いため、適切な下剤等の投与が必要になります。気をつけないといけないのは、大腸がんなどの「狭窄性」便秘を除外することです。大腸内視鏡検査などで「狭窄性」便秘を否定できれば、経口便秘薬を使用します。
便秘の治療(経口便秘薬)
ここ数年、慢性便秘症を対象にした機序の異なる新薬が相次いで発売されました。従来は、酸化マグネシウムなどの塩類下剤とピコスルファート、センナなどの刺激性下剤、漢方薬が主流でした。しかしながら、従来の便秘薬には副作用がありました。酸化マグネシウム製剤は腎機能が悪い人や高齢者では高マグネシウム血症が起こることがあり
ます。また、酸化マグネシウムが効力を示すためには胃酸が必要であり、胃酸を抑制する薬を服用している人は効果が減弱します。また、刺激性下剤は長期使用によって効果が減弱することがありました。そこで、副作用の少ない薬が開発されました。上皮機能変容薬のルビプロストン(商品名アミティーザ)、リナクロチド(商品名リンゼス)、胆汁酸トランスポーター阻害薬のエロビキシバット(商品名グーフィス)、欧米では第一選択で使用され、小児にも使用できる腸内浸透圧亢進薬のポリエチレングリコール(商品名モビコール)などが立て続けに登場しました。これらの薬をどう使っていくかは、患者さん個々の効き方や副作用に差がありますから、病態に合わせて服用することで満足のいく便秘治療を目指すことが出来ます。