食べ過ぎてもいないのに「胸やけ」。
もしかしたら・・「胃食道逆流症」かもしれません。
消化器内科 原 睦展医師
はじめに
胃酸などが食道に逆流することによって起こると考えられている「胸やけ」。 内視鏡で食道粘膜に炎症が見られる場合は、「逆流性食道炎」と診断されますが、 内視鏡で見ても正常なのに胸やけがあるというケースが増えてきており、 炎症があるなしにかかわらず、これらの症状を総じて「胃食道逆流症」と呼んでいます。
「胃食道逆流症」とは
「胃食道逆流症(GERD: Gastro Esophageal Reflux Disease)」は、胃酸などの胃の内容物が食道内に逆流することで起こる病態を総称した疾患名です。簡単にいうと「胸やけ」といわれる症状すべてをそう呼びます。内視鏡検査で粘膜障害が認められる「逆流性食道炎」もこの中に含まれます。
近年注目されているのは、「胸やけがあるが内視鏡検査では異常が見つからない」ケースで、「非びらん性胃食道逆流症」と呼ばれます。びらんはただれを表す言葉で、ただれていないのに逆流性食道炎の症状を示すもの、という意味です。
なぜ注目されているかというと、胸やけを訴える患者さんの60~70%がこの「非びらん性胃食道逆流症」ではないかと考えられているからです。また、逆流性食道炎と同様に食事がおいしくない、仕事や勉強に集中できないなど、日常生活に支障が出ていることも注目される要因になっています。
「胃食道逆流症」の原因
胃食道逆流症の原因は、現在のところ明確になっていませんが、精神的ストレスや、過労などの身体的ストレスが原因といわれており、そうした緊張状態が食道のさまざまな機能に影響を与え、逆流症状を起こしているのではないか、と考えられています。
◆下部食道括約筋の機能低下
食道と胃の間には、胃の内容物が逆流するのを防ぐ括約筋があって、飲み込んだ食べ物やげっぷが出るときにのみ通過できるようになっています。その括約筋の機能が低下(弛緩)していると、逆流が起こりやすくなります。脂っこいものを食べたり、一度に大量に食べたりすると括約筋が弛緩しやすくなるため、宴会でたくさん食べたりしたあとなどに胸やけの症状が起こりやすくなるのです。
◆胃酸過多
胃の中の胃酸が過剰に出てしまい、げっぷなどの刺激とともに食道内に逆流することによって起こります。肉をよく食し、酸分泌能力の高い欧米人によく見られましたが、日本人も食生活の欧米化による脂肪摂取量の増加などで多く見られるようになってきました。
◆食道の知覚過敏
食道が酸を特に感じやすくなっている、いわゆる知覚過敏によって症状を訴える例も報告されています。粘膜障害が認められないのにもかかわらず、胸やけを訴えるのは少ない胃酸に対して食道が敏感になっているためというわけです。
◆その他
酸以外を原因とする胸やけもあます。たとえば胃を全部摘出した方が強い胸やけを訴えるケースなどは、胃食道逆流症が酸だけではなく食道機能に異常が起こっていることを示す例です。
「胃食道逆流症」の症状
主に以下の2つの症状に分類されます。
◆定型症状(食道付近で起こる症状
- 胸やけがする
- げっぷがでる
- 胸の痛みがある
- 胸のつかえ感や異物感がある
◆非定型症状(食道以外で起こる症状)
- 声がかすれる
- のどのあたりに違和感がある
- 中耳炎
- ぜんそくに似た咳が出る
- 胸のあたりが痛む
- 虫歯
- 歯ぎしり
- 睡眠時無呼吸症候群
「胃食道逆流症」の検査
胃食道逆流症の検査は主に2つの方法で行なわれます。 ひとつは内視鏡を用いて粘膜を直接観察する方法で、もうひとつはバリウムを用いたX線透視(造影)検査です。現在では、内視鏡検査が主流です。
◆内視鏡検査
◆腹部X線検査
「胃食道逆流症」の治療
胃食道逆流症の治療は、主に薬物療法などの内科的治療と食生活を含むライフスタイルの改善の両面から行ないます。
◆薬物治療
- 消化管運動機能改善薬: 低下したり、過剰になりすぎたりしている腸の運動機能を正常な状態に近づける作用を持ったくすりです。
- 胃酸分泌抑制薬:胃を刺激する胃酸の分泌を抑えるくすりです。
- 抗不安薬: 軽い不安や緊張など、ストレスに有効なくすりです。
◆日常生活上の注意 食生活にも気をつけながら、治療を行ないます。
- 脂肪分の多いものや刺激物を避ける
- 規則正しい食生活を心がける
- 就寝3時間前の食事は避ける
- 過度の飲酒はしない
このほか、睡眠時は上体を高くして寝る、ストレスをためないようにする、ズボンのベルトを締めすぎないようにする、など日常生活での改善も必要です。