泌尿器科 大口 泰助医師
オシッコが我慢できない、もらしてしまう。それらは歳や体質のせいだと思っていませんか?もしかしたら、「過活動膀胱」という病気の症状かもしれません。
同じ症状がでる他の病気の可能性もありますので、泌尿器科で診察を受けたうえで、適切な治療を受けられることをお勧めします。
過活動膀胱(OAB)とは?
オシッコが我慢できない、もらしてしまう。それは歳や体質のせいだと思っていませんか?あなたの悩んでいる症状はもしかしたら「過活動膀胱」という病気の症状かもしれません。
この過活動膀胱(OAB:Over Active Bladder、以後OAB)は、2年前の国際禁制学会で決められた頻尿や尿失禁の分野での新しい診断名です。OABの主な症状は3つ、①尿意切迫感②頻尿③切迫性尿失禁です。ただし、局所の疾患である膀胱炎や膀胱癌、またはその他の全身性疾患などによるものは除外します。
- 尿意切迫感とは、急に起こる抑えきれないような強い尿意のことです。
- 頻尿とは、昼間8回以上、夜間1回以上トイレに行くことを言います。
- 切迫性尿失禁とは、尿意切迫感だけでなく、トイレで排尿するまで我慢できず、尿を漏らしてしまうことを指します。
最近の調査では、日本では40歳以上の男女の12.4%、つまり8人に1人がOABの症状を持っていることがわかっています。実際の患者さんの数は、800万人以上ということになります。
OABには、脳と膀胱(尿道)を結ぶ神経のトラブルで起きる「神経因性」のものと、それ以外の原因で起きる「非神経因性」のものがあります。
1)神経因性過活動膀胱
まず「神経因性」について。脳出血や脳梗塞などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄損傷などの脊髄の障害の後遺症により、脳と膀胱(尿道)の筋肉を結ぶ神経の回路に障害が起きると、「膀胱に尿がたまったよ」「まだ出してはいけないよ」「もう出していいよ」「膀胱を緩めるよ(締めるよ)」「尿道を締めるよ(緩めるよ)」といった信号のやりとりが正常に働かなくなります。その結果、膀胱に尿が少ししかたまっていなくても尿を出そうとしたり、「締める」「緩める」の連携がうまくはたらかなかったりして、OABの症状が出るのです。
2)非神経因性過活動膀胱
続いて「非神経因性」について。男性の場合、前立腺肥大症などで尿が出にくい状態が続くと、排尿のたびに、出にくい尿をなんとか出そうとがんばる膀胱に負担がかかることになります。これが繰り返された結果、膀胱の筋肉が異常をきたし、少しの刺激にも過敏な反応をするようになり、OABが起きます。女性の場合、加齢や出産によって、膀胱・子宮・尿道などを支えている骨盤底筋が弱くなったり傷んだりすることがあります。そのために排尿のメカニズムがうまく働かなくなり、OABが起きます。
上記以外の何らかの原因で膀胱の神経が過敏にはたらいてしまう場合や、原因が特定できない場合もあります。いくつかの原因が複雑にからみあっていると考えられています。この原因の特定できないものや加齢によるものが、実際には最も多く存在しています。
過活動膀胱の診断と治療
1)過活動膀胱の診断
診断は、「尿意切迫感を有し、通常これに頻尿および夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともあれば伴わないこともある状態」で自覚症状のみで行います。膀胱内圧測定などの専門的な検査は必要なく簡単に診断がなされます。
しかし、OABと同様の症状がでることがあります。鑑別を行うため、尿検査にて尿路感染症や血尿がないことを確認し、超音波などで残尿量を測定します。また、1日の排尿の状態を正確に把握するため、患者さんに排尿日誌をつけて頂きます。その結果、夜間多尿の傾向であったり、水分を取りすぎたため頻尿になったことが分かると、患者さんの状態にあった生活指導が行われます。
2)過活動膀胱の治療
治療法は、薬物療法と行動療法が主体となります。
薬物療法には、主に抗コリン薬を用います。膀胱を収縮させる信号は、“アセチルコリン”という物質が神経の末端から出ることによって、膀胱に伝えられます。このアセチルコリンのはたらきを弱めることで、膀胱の異常な収縮を抑えるのが、抗コリン薬という薬です。飲み始めてから1週間~1ヵ月で効果が現れます。治療開始後は、残尿量を検査しながら、薬の量を調節します。抗コリン薬の副作用には、「口の渇き」「便秘」などがあります。
またα1受容体遮断薬という薬も使用されます。α1受容体遮断薬は前立腺肥大症の治療薬として使われる薬ですが、過活動膀胱のような症状(頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感など)に対しても改善効果を示すことがわかっています。また、前立腺肥大症で長期間、尿が出にくい状態(下部尿路閉塞)が続くと、過活動膀胱のような症状が出やすいことは先に述べた通りですが、前立腺肥大症の患者さんで過活動膀胱のような症状がある場合は、まず、前立腺肥大症の治療を優先させます。したがって、最初に抗コリン薬ではなく、α1受容体遮断薬が最初に選択されます。副作用には、「めまい」、「ふらふら感」などがあります。
行動療法として、「膀胱訓練」、「骨盤底筋体操」などで、機能の弱まった膀胱や骨盤底筋を鍛えることによって、尿トラブルの症状を軽くすることができます。