小畠病院(福山市駅家町)

「睡眠時無呼吸症候群」の症状・診断・治療

脳神経内科 小畠 敬太郎医師

大きな「いびき」をかいて寝る方は多いですが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)という病気の可能性があると思っている人は少ないようです。

中等症以上のSASの患者さんは、健常者に比べ、脳卒中には約4倍、虚血性心臓病には約3倍、高血圧には約2倍、糖尿病には約1.5倍かかりやすいことがわかっています。さらにSASをそのまま放置しておくと、約10年もしないうちにその4割近くの人が亡くなっているといわれています。

このようにSASは身体的な大問題なだけでなく、仕事中の強い眠気は重大事故を引起しかねません。
心当たりのある方は早めに検査を受けましょう。

睡眠時無呼吸症候群(その1)

寝ている時に大きな鼾(イビキ)をかいているといわれたり、睡眠中に突然鼾が止まり呼吸もしなくなったといわれたことがある人はありませんか。あるいはご家族など一緒に寝ている人のなかに、大きな鼾を伴い、睡眠中に何度も呼吸が止まってしまう人はありませんか。このような症状の人は睡眠時無呼吸症候群(SAS;Sleep Apnea Syndrome)といわれる病気です。寝ている時の病気なので自覚が無く、他の人から大きなイビキや無呼吸を指摘されて本人が気がつくことが多いのです。

睡眠時無呼吸症候群の定義は、「一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上おこる、または睡眠1時間あたり平均5回以上の無呼吸数や低呼吸数が5回以上おこる。さらに日中に強い眠気を伴う」ということです。

主な症状は、眠っている間に呼吸が止まることに加え、自覚的には①日中の強い眠気、②起床時の頭痛、③熟睡感がない、他覚的には④大きなイビキ(ほぼ100%)、⑤肥満(70-80%)、⑥睡眠中の多動(よく動いて寝相が悪い)などです

睡眠時無呼吸症候群のほとんどが上気道閉塞による閉塞性睡眠時無呼吸症候群と分類されるものです。日本人の1200万人が習慣性のイビキを呈しているといわれ、約200万人が閉塞性睡眠時無呼吸症候群にかかっていると推定されています。男女比は明らかに男性の方が多く(女性の2-3倍)、男性は40-50歳代が半数を占め、女性では閉経後に急増します。

ではなぜここで睡眠時無呼吸症候群が話題になるのでしょう。それは
(1)睡眠時無呼吸症候群の患者さん、特に重症の患者さんは明らかに死亡率が高く、無治療で放置すると9年後にはその約4割近くの人達が死亡します。これは大変な問題です。次に
(2)新幹線の運転士によるオーバーランや裁判官の居眠りなど、睡眠時無呼吸症候群にかかっている人達による事件や事例が目立つようになっています。

睡眠時無呼吸症候群(その2)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の研究が始まった1980年代ごろから、SAS患者さんは、健康な人と比べて、早死すると言われていました。原因は心臓病などが原因だろうと言われていましたが、きちんとした調査がされておらず、はっきりしたことはわかりませんでした。

しかし近年では、健常者に比べ中等症以上の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんは脳卒中には約4倍、虚血性心臓病には約3倍、高血圧には約2倍、糖尿病には約1.5倍かかりやすいということが分かってきています。このように「SASは生活習慣病を呼ぶ!」といえるようになりました。さらにSASの患者さんはそのまま放置していると、10年もしないうちにその4割近くの人が亡くなるといわれています。このようにSASは身体的な大問題なのです。

一方夜間呼吸が止まり血中の酸素が足りなくなると、本人の体は眠っているようでも脳は覚醒している状態が繰り返されています。睡眠は全体的に浅くなり十分な睡眠が取れないこととなります。そのため朝起きたとき熟睡感がなく、疲労感も取れた気がせず頭が重く感じたりします。さらに重要なことは日中に強く眠気が出現することです。

このため新幹線を運転していれば止まる駅を通過しそうになったり、自動車を運転する人はしばしば事故を起こすことになります。あるいは乗客として電車やバスに乗れば降りる駅や停留所を寝過ごしてしまいます。その外仕事中に集中力が低下し作業の効率が低下したり、エラーが増えてきます。作業内容によっては重大な労働災害事故を招来します。勿論夜一緒に寝る人にとって、毎晩隣で大きなイビキをかかれたのではたまりません。その上このまま永久に呼吸を止めてしまうのではないかと心配でたまりませんね。これらはいずれも大きな社会的問題なのです。

でも早く診断を受けて、適切な治療を選択すれば大丈夫です。ひとつずつ解決しましょう。

睡眠時無呼吸症候群(その3)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療の流れは以下のようになります。

1)まず問診です。
昼間の眠気、鼾(イビキ)の状態、夜間のトイレの回数、朝起きたときの状況、既往歴などをお尋ねします。そのときできるだけご一緒に寝ておられる配偶者の方などとともに外来へお出でいただくと良いのです。同時に肥満の程度や高血圧症の有無などをチェックします。

2)スクリーニング検査: 
SASが疑われると就眠前にパルスオキシメーターを手の指につけてお休み頂き、血中の酸素飽和度(SpO2)を一晩記録します。睡眠中に無呼吸があるとそのときは血中の酸素が少なくなるので、SpO2の変化から一晩の呼吸の状態を知ることが出来ます。これで睡眠中に一定頻度で無呼吸がありそうであれば、次の詳しい検査を行います。

3)終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査: 
先のスクリーニング検査で睡眠中の無呼吸があると思われた場合は、詳しく睡眠の状態や呼吸の状態、動脈酸素飽和度(SpO2)、心電図や心拍数の変化などを一晩記録します。このためには病院で一泊していただく必要があります。

取り付けるセンサーはたくさんありますが、痛いものはありません。脳波を記録することで深い睡眠がとれているか、浅い睡眠でしばしば覚醒しているのかをチェックします。胸郭の動きや、鼻腔の気流の状態を記録して呼吸の状態がどうか、無呼吸や低呼吸が何回あるのか、無呼吸のタイプがどのようなものかを判断します。また呼吸の状態とともに血中酸素濃度の低下の状況が分かります。

睡眠時無呼吸症候群(その4)

睡眠時無呼吸症候群の治療についてお話します。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)の治療の目的は患者さんの自覚症状を和らげることと同時に、最終的には生命予後を延長することです。そのために、
1)生活習慣に関する指導と、
2)内科的・外科的治療および歯科装具による治療があります。

OSASの患者さんがすべて治療の必要があるわけではありませんが、重症の人(PSGの結果、無呼吸指数(AI)20以上あるいは無呼吸・低呼吸指数(AHI)が30以上)の場合は、自覚症状の有無とは無関係に積極的な治療が必要です。軽症~中等症(PSG検査の結果で5≦AHI<30)では日中の眠気などの明らかな自覚症状がある場合、あるいは自覚症状が乏しくても高血圧症や糖尿病や心疾患などの危険因子がある場合にも積極的治療が必要です。

まず1)生活習慣の改善をするだけで睡眠時の無呼吸が軽減したりなくなったりします。①体重の減量は基本です。②飲酒の制限―アルコールは上気道の筋肉を弛緩させるため就寝前の飲酒は制限します。③同様の理由で精神安定剤の制限。④禁煙―喫煙は血中酸素濃度を低下させ咽喉の炎症を起こすので禁煙を。⑤横向きで寝る―仰臥位で寝ると舌根が沈下して気道を閉塞させるため。
軽症~中等症で無症状の場合あるいは先ほどの病気の危険因子のない場合はこれら生活習慣を改善することを心がければ良いでしょう。

2)中等症~重症では内科的な治療として、睡眠中マスクをして気道に陽圧をかける鼻マスク式持続陽圧呼吸(nCPAP)が第1選択となります。この治療法で睡眠時の無呼吸やイビキは著明に改善し、生命予後も良くなります。多くの研究でこの治療効果が証明されています。

この治療法の継続が困難な場合、歯科的にマウスピースを作成して寝るときに装着する方法があります。その他手術的に気道を拡大する方法があります。特に耳鼻科的に高度の扁桃肥大があったり、鼻ポリープなどで鼻閉が強いときなどです。どの治療を選択するかは一概に言えませんので、医師にご相談ください。

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